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Spiral Instability(螺旋不安定)について [MU-2]

Spiral Instability(螺旋不安定)

「垂直尾翼が極めて大きく、上反角が小さい飛行機は、横滑りをすると螺旋を描いて降下する。これは螺旋不安定( Spiral Instability )とよばれるが、飛行機は螺旋不安定であってはならない。」

出典:機械工学講座 26 航空工学 岡本哲史 著 共立出版 昭和52年10月25日 初版18刷 p13

まず、後退翼のジェット機が主流となった現代では、教科書の「上反角が小さい」という表現は「上反角効果が少ない」と言い換えた方がよさそうですね。

Spiral Instability は、飛行機の「横安定」における不安定特性であって、Spiral Instability の対極にある不安定特性が Dutch Roll (ダッチ・ロール)であるということもこの教科書で知りました。

Dutch Roll については JAL123便の事故で広く知られることとなりましたが、正直なところ Spiral Instability という言葉を知ったのは最近のことで、上記のテキストは学生時代から持っていたものの、飛行機を設計する仕事はしていなかったので、このくだりは読んでいたかもしれないのですが、まったく認識していませんでした。

余談になりますが、一時期ラジコンをやってたことから、この特性を現象としては知っていたけれども、それが Spiral Instability とよばれるものとは知らなかったのです。模型とはいえ自分の意図に反してラジコン飛行機を墜落させてしまうことを繰り返すと、理屈は解らなくても飛行機にとってどういう形態が「ヤバい」かは、感覚的にわかるようになるので、これから飛行機の設計者を目指す方々には、いろんな形態のラジコン飛行機を飛ばして、それらがどうゆう状況(要因)で墜落してしまうのか是非とも経験していただきたいと考えます。自分で飛行機を操縦することも良い経験となるでしょうが墜落の経験はできたとしても、それでは The End となってしまいますから・・・

本題に戻ります。

「垂直尾翼が極めて大きく、上反角が小さい飛行機」

このフレーズに反応して最初に思い浮かべたのは MU-2 でした。

MU-2は公式には

上反角「0°」

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出典:
「三菱双発ターボプロップ多用途機 MU-2」池田研爾
航空学会誌 第13巻 第143号 (1965年12月) p16-24

とありますが、地上での写真を観ると、むしろ微妙に下反角がついているようにも見えます。飛行中に上反角がきっちり「0°」となるように揚力で撓む分を補正?したのかもしれませんね。

上記出典によると、MU-2では高翼配置の形態による上反角効果が期待できるので、主翼の上反角は「0°」で問題ないとしていますが、YS-11のように上反角効果が机上計算どおりに実機で実現されなかった場合にどうするつもりだったのでしょうか?

また、上記出典のなかで「高翼の場合は、低翼の場合と比べて4~5°の上反角効果を持っていることになる」とありますが、低翼配置では下反角効果が出現するので、MU-2の高翼配置による上反角効果は、その半分の2°程度となるように思います。

以下に述べるように、YS-11が当初の主翼上反角設計値4°19′では不充分で、飛行試験による横滑りからのスピン傾向が強すぎることが判明し上反角を更に「2°」増すことになったという経緯を考えると、MU-2の上反角効果は2°程度で本当に大丈夫なのかなとは思いませんか?MU-2の上反角効果も4°くらいは必要だったのではないか?
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もっと言うと、YS-11の上反角で足りなかった「2°」分は、実は上の図の低翼配置による上反角の減殺分ではなかったのか?という疑惑です。

YS-11の上反角について

YS-11で上反角の設定(上反角効果)が設計通りにゆかず、飛行試験で初めて問題となった話は有名ですが、その問題が「螺旋不安定」だったわけです。
YS-11上反角.jpg
出典:
「半世紀前の型式証明―YS-11の頃―*」藤原 洋
http://www.aero.or.jp/web-koku-to-bunka/2013_12/2013_12.html

YS-11 (1962.08.30初飛行)では三菱の設計陣も関わっていたので、当然MU-2(1963.09.14初飛行)でも上反角(効果)を設計するにあたって設計上なにかしらの「マージン」をとっていたのか、「高翼配置による上反角効果が充分有効であるという前提で」それを補正するために翼端燃料タンクの(主翼面に対する上下の)配置とタンクに付加した「フィン」で微調整を行っています。
出典:
「MU-2G に採用した上反角効果調整フィンについて」上山和夫ほか
日本航空宇宙学会誌 第22巻 第247号 (1974年8月) p33-36

一旦はなるほどと思ったものの、しみじみMU-2のプラモ(長谷川1/72)を眺めていて気になったのは、主翼前縁はほぼストレートだけれども、後縁はあきらかに前進しているし、プラモにモールドされているヒンジラインが正しければ、フラップを下げた際に上反角効果は減じられるのでないだろうか?という疑問もあらたに加わりました。

以上まとめると

YS-11 当初の上反角4°19′→補正後の上反角6°16′
に対して
MU-2 物理的上反角0°+高翼配置による上反角効果2°程度

疑問点
MU-2の設計上の上反角効果は4~5°ではなく、実は2°程度しかないのではないか?
MU-2のフラップ下げ時に上反角効果が減殺されることはないか?

MU-2は、まだまだ米国で運用中なのでMU-2の設計関係者各位は守秘義務によりコメントできないとは思いますが、将来いつか、以上の疑問点などについて解説していただければ幸いです。つづく
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