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MU-2のスポイラの効き [MU-2]

「三菱双発ターボプロップ多用途機 MU-2」池田研爾
航空学会誌 第13巻 第143号 (1965年12月) p16-24

のp20に掲載されている「スポイラの効き」を示す図について考察してみました。
スポイラの効き.jpg
本文献の本文には「ダ輪角(ハンドル角)に対し直線性も十分である」とありますが、左側への操舵では右側に比べ、この図の左下の領域における「効き」具合のバラつきが明らかに大きいです。

この図の左下の領域は操舵角が大きくなる低速飛行時に相当することから、失速条件に近づいてスポイラの「効き」が不安定になっているものと解釈できます。

このバラつきの左右差はプロペラ後流の影響によって、右翼のスポイラがプロペラ後流の影響をより強く受け、スポイラを乗り越える流速が左翼より高めに安定している為であると考えられます。

なお、この文献が執筆された当時の初期モデルは、プロペラの回転方向が後視CW(進行方向に向かって時計回り)であったことから、主翼上面におけるプロペラ後流は左舷側から右舷側への横向き成分を持つという前提としています。
主翼上面プロペラ後流.jpg
黄色矢印がプロペラ後流の境界イメージ、主翼上面の赤色と青色ラインがスポイラで、赤色がプロペラ後流の影響を受ける区間(イメージ)
出典:以下の掲載写真に加筆
http://www.mod.go.jp/asdf/arw/syuyousoubi/MU-2A.html

後の4枚プロペラのモデルでは後視CCWとなっているので、初期モデルの左右差(癖)のあるロール操舵を習得したパイロットが逆回転のモデルに乗り換えた時期に、事故が多発したのでないかと想像します。

第9図の結果だけみれば、プロペラ後流の影響下にスポイラを置いた方が「効き」が安定して一見よさそうにも思えますが、むしろ、これは逆にプロペラ後流の影響がなくなった時、すなわちエンジン停止(あるいはパワーダウン)時にそれまで安定していた「効き」が不安定になってしまうという点で、好ましくない特性であると考えるべきでしょう。

ちなみに、双発以上のプロペラ多発機の場合、製造コストと整備コストの低減を優先して左右(全て)のエンジン(およびプロペラ)を同じもの(同方向回転)にすることが多いですが、軍用機では飛行中の機軸を安定させることを優先して左右のプロペラ回転を逆にした双発機があり、WWⅡではP-38、戦後の機体ではOV-10などが有名どころでしょう。

ところで、左右同方向回転のプロペラ双発機の場合、OEI(片発エンジン停止)の際にPファクターの影響がよりクリティカルになる臨界発動機(Critical Engine)が定義されますが、左右逆回転の双発機はPファクターを抑える方向に回転させているものだと思い込んでいました。

OV-10では右側が後視CCW、左側が後視CWで、Pファクターの影響を抑える方向です。
OV-10.jpg
出典:
https://www.pprune.org/4693945-post15.html

これに対して、P-38ではPファクターが助長される方向で、右側が後視CW、左側が後視CCWとなっています。
P-38.jpg
出典:
http://475th.org/p-38/about-the-p38
P-38の場合はPファクターの抑制よりも翼端失速を抑制する(低速時にプロペラ後流の吹きおろしによって翼端側の迎え角を抑える)ことを優先したのではないかと思われます。

OV-10、P-38は、共にエンジンナセルを延長した双胴に小さ目の垂直尾翼を配置したスタイルで、ロールコントロールはAileronによります。OV-10については高翼で上反角ゼロである点がMU-2と同じ形態であることから、OV-10の特性が判ったらいずれ比較してみたいと思います。

双発でも胴体の前後にプロペラを配置したO-2という機体は、前後のプロペラを逆回転(エンジンは前後逆配置なので基本同じものが使える)とし、Pファクターをキャンセルするという興味深いスタイルでした。
O-2.jpg
出典:
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cessna_Skymaster_O-2_5.jpg

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コメント 2

ねこひこ

あらためて観直すと、P-38のプロペラ後流は翼端まで影響しそうにないのことから、エンジンナセルと胴体の間を通過するプロペラ後流が主翼迎え角(揚力)を増すことを期待して回転方向を決めたものと思い直し訂正します。

因みに、オスプレイのプロップローターの回転方向がP-38と同じなのですが、オスプレイの場合は離陸モードで主翼の対気速度を稼げる方向に回転させているようです。
by ねこひこ (2018-01-29 19:57) 

ねこひこ

MU-2ではないのですが、C-130の主翼上面のプロペラ後流の偏向具合が判る写真を2件紹介します。

最初の方は
This photo is copyright protected and may not be used in any way without proper permission.
とあるので、画像のみの転載は禁止です。
www.airliners.net/photo/UK-Air-Force/Lockheed-Martin-C-130J-30-Hercules-C4-L-382/376950

もう一つは、画像の転載可否を確認中です。
https://www.facebook.com/yokotaairbase/photos/a.138628832837491.17506.131001683600206/1860452650655092/?type=3&theater

「左旋左傾」の問題を抱えていたPS-1やUS-1も、こんな感じだったのでしょうか?
by ねこひこ (2018-02-26 17:46) 

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