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MU-2 がSpoileronを採用するきっかけとなった実用機 [MU-2]

「三菱双発ターボプロップ多用途機 MU-2」池田研爾
航空学会誌 第13巻 第143号 (1965年12月) p16-24

のp20に
(1965年当時)「世界で横操縦にスポイラだけを利用した実用機としては、アメリカのグラマン社製艦上戦闘機F-11F、 ノース・アメリカン社製のマッハ2.0艦上爆撃機“ビジランティ”、現在(当時)開発中の海空共通のマッハ2.5の可変翼戦闘機F-111の3機種しか聞いておらず、その詳細も不明である」
とあったので、F-11F“Tiger”, A-5“Vigilante”, F-111“Aardvark” のSpoilerがどんなものであったか調べてみました。

F-11F “Tiger”のSpoilerが開いている写真をみつけきらなかったので、とりあえずF-11が採用されていた時代のBlue Angelsの動画を紹介します。
出典:
https://www.youtube.com/watch?time_continue=598&v=Sf4MvIHChz0
 0:35辺りから左ロール中に左Spoilerが開いているのが判ります
 3:30辺りから背面からの左ロール機動後半の一瞬ですが、Spoiler展開中にフラップ付け根前方に翼の上下面を通じる「窓」が開くのが確認できます。また注意深く観察すると背面から左ロール操作に入る直前に機首上げ(背面なのでcontrol stick push)しており、これはロール終盤でSpoiler作動に伴う高度ロスを見込んでのことだと思います
 4:15辺りから着陸前の左ロール操作で高度がガクンと落ちているのが判ります
 6:25辺りから駐機中の2番機の右翼Spoilerが展開しているのが確認されます
 9:35辺りからの連続ロールに入る前にピッチアップしているにもかかわらず、連続ロール後半で高度が急激に低下しており、Spoileron最大の欠点を明示したシーンといえましょう
とは言え、F-11は密集編隊飛行可能だけのきめ細かな操舵特性と、キレのあるロール機動を可能とするSpoileronシステムを成功させた機体と言えそうです。

A-5 “Vigilante”のSpoiler(Aileron上げ相当)はDeflectorとセットで作動して翼の上下面を貫く「窓」を開けて、翼下面の気流をSpoilerの背面に導き出しています。さらには、反対側の翼にあるUp-Going Wing(Aileron下げ相当)と同期作動してroll (lateral) controlするというかなり凝った構造となっています。
A3J_Lateral_Control_System.jpg
出典:
http://tailspintopics.blogspot.jp/2010/12/vigilante.html
以下の写真では、Spoilerの外舷側のUp-Going WingのDeflectorが同時に開いているのが判ります。左右両翼のSpoilerとUp-Going Wingを同時に展開することでSpeed Brakeとして作用させているそうです。
RA-5_Spoileron.jpg
出典:
https://www.zona-militar.com/foros/threads/aviones-especializados.23364/page-4#post-957517

F-111 “Aardvark”のSpoilerはMU-2と同じく展開するとヒンジ近くで翼上面との間に隙間ができるタイプですが、MU-2のそれに比べるとかなり大きい(翼弦が長い)です。
F-111_Spoileron.jpg
出典:以下のリンク先を2/5くらいスクロールした辺りに掲載されている画像
https://bayourenaissanceman.blogspot.jp/2010/11/weekend-wings-37-f-111-aardvark-part-1.html

次の写真から、ダブル・スロッテッド・フラップの様子がよく判り、Spoilerを展開してできるフラップ前方の「窓」から翼下面の気流がSpoiler背面に抜ける構造はF-11, A-5と同様です。
F-111_Flap.jpg
出典:
https://en.wikipedia.org/wiki/File:F-111_with_Durandal.jpg

が、いずれも機速の早いジェット機で、しかも多様な形態でありその特性も不明であったことから、MU-2でSpoileron採用可否を判断する先例とはならなかったようです。

以上F-11, A-5, F-111の3機種のSpoilerに共通するのは、Spoiler背面に翼下面の気流を導いている事で、これによりSpoiler後流に大きな剥離を生じることなく、(主翼後縁において気流の吹き出し角?を偏向させるAileronの代わりに)Spoilerとその背面付け根に開く「窓」によって主翼翼弦の途中で主翼下面から上面に偏向する流れを発生させていることから、主翼上面の剥離によって揚力を減ずるMU-2のSpoiler (Spoileron)とは全く別物と言えるでしょう。

MHIがMU-2にSpoileronが採用できるかどうか検討していた当時、研究開発されていた「X1G1高揚力研究機」
http://www.aero.or.jp/isan/heritage/aviation-heritage-X1G1B-detail.htm
の記事をみると、
「フル・スパン・フラップとスポイラーを装備した新設計の主翼を装備した機体にX1G1という名称を与え、1957(昭和32)年から飛行試験を始め有効性を確認した。(中略)本機での実験により得られた知見と技術は、C-1輸送機、PS-1飛行艇、MU-2ビジネス機に活用された」
とあることから、MU-2はこの機体でのスポイラー特性を参考にSpoileronの採用を決めたようです。
X-1G_Spoiler.jpg
http://dansa.minim.ne.jp/AH-1958-X1G.htm
この写真と違う形態での試験が行われたかどうかは不明ですが、このSpoilerはMU-2の背の低いスポイラーに比べると、コード(翼弦)長の大きい、どちらかというとF-4と同様なスプリットフラップ形式のSpoilerです。しかもプロペラ後流の影響を受ける主翼付け根あたりを外した配置であることもMU-2とは事情が異なります。

当然のことながら、MHIではMU-2の模型風洞試験によりスポイラー特性を取得していますが、先の出典に掲載されている写真(図8 失速気流試験の一例)を見る限り、肝心のプロペラ後流の影響は考慮されていません。

「失速が問題となる低速時には当然、プロペラ後流の横向き成分が大」
きくなり、しかも
「左翼は外舷から内舷寄り、右翼は内舷から外舷寄りの斜めの流れが発生」
する中、さらには、Spoileron内舷側の端がエンジンナセル内舷とほぼ同じことから、
「左翼のスポイラーよりも右翼のスポイラーの方が、プロペラ後流の影響が大」
きいし、もっと突っ込めば、スポイラーのヒンジラインが外舷にかけて前進しているので、
「左翼のスポイラーは右翼のスポイラーに比べて、より斜めの気流を受ける」
ことになる

つまり、プロペラ後流の横向き成分がSpoileronに及ぼす影響によって、左ロールと右ロールで特性が違ってくるはずですし、スポイラーにあたる気流の斜め具合が機速とエンジン出力によっても変化する分、ロール特性(舵の効き)もかなり変わってしまうのではないかということです。

先に【情報求む】として問うた
「プロペラ後流の影響を受けるエリアにSpoileronを配置した例」
は、あり得ないというか、そもそも、そんなところにSpoileronをおいてはいけなかったと思うのです。

つづく

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